不可能を可能にしたのは、開発チームにいた矢野の好奇心からだった。

時は過ぎ、2004年8月も終わろうかという頃、開発チームの矢野はいつものようにニュースリリースに目を配らせていた。新しモノ好きの性格の矢野にとって、ニュースリリースなどの情報チェックは日課となっていた。様々な最新情報が掲載されているなかで、矢野は一つのニュースに目を留めた。
「シスコ社のOSがバージョンUP。機能が拡張される」
興味本位で矢野はシスコ社へ問い合わせをする。昔からある技術だったが、バージョンアップと共に拡張された機能が、以前、原山が話していた新しいVPNの構想に使えるかもしれない。
矢野はさっそく原山へ、この「DM VPN」というフレームワークのことを伝える。話を聞いた原山は驚いた。
半年くらい前はありえないと思われた構想が、現実のものになりそうだった。一つの問題点を除いては。それは・・・
どこもそれをやったことがない
そう、「DMVPN」という技術は、プロバイダーが提供するサービスとして採用された実績がなかったのである。
しかし、矢野がシスコ社へ新VPNの構想を持ちかけると、意外にも前向きな反応を示す。これはシスコ社側の狙いたかったターゲットと、bit-drive側がメイン顧客と考えていた中堅企業というターゲットが一致したため。
bit-driveとシスコ社。二者が同じ目標を持ったことにより、プロジェクトは前進する予感に包まれた。
道は開かれた。しかし、原山の頭には幾つもの不安がよぎる・・・
プロジェクトのスタート目前。原山は、今回のプロジェクトには「企画側」と「開発側」の意識統一が重要だと考えていた。従来のVPNサービスでは、企画と開発はあまり一緒に仕事をしていくというスタンスではない。この溝を埋めない限り、このプロジェクトは成功しない。そう考えていたのだ。
また、ユーザー情報の不足も原山の不安の一つだった。企画側も、実際に使っているユーザーの情報はそれほど豊富でないうえに、まして開発側となると、ユーザーの顔すら浮かばない状態。今までは、「こういう使い方だとトラフィックがこの位流れるから、バックボーンはこの位の帯域で…」というように、統計情報のみで仕事をしてきたのだ。わからないのは当然のことだった。
不安を抱えたまま、プロジェクトのスタートは近づいていく。
そして、このときは誰一人として、新VPNサービスが完成されるまでに、あれほどの時間と労力がかかることを予想してはいなかった。







